白ナンバー事業者のアルコールチェック義務化について/弁護士から見た交通安全

2022年4月1日から道路交通法規則の改正で施行された「白ナンバー事業者のアルコールチェック義務化」について、全5回に渡って現役弁護士が解説してまいります。第1回は、今回のアルコールチェック義務化の背景や目的についてです。
※本記事は損保業界の動向・最新データを掲載する新日本保険新聞(損保版)2022年5月20号に掲載されたものの転載です。

ジェネクスト株式会社 取締役CLO
川崎武蔵小杉法律事務所
弁護士 橋本 信行

[第一回]アルコールチェック義務化の背景

今般、道路交通法施行規則が改正され、本年4月1日から施行されました。
この結果、今までいわゆる緑ナンバーについてのみ課されていたアルコールチェックの義務、記録の保存義務が、白ナンバーの車両を一定の台数運行させる事業者にも課されることとなりました。アルコール検知器の備え付けの義務も10月1日から施行されます。

しかし、実際の運用については依然として不明点が多いところです。そこで本稿では全5回にわたり、今回の改正にまつわる内容について掘り下げていきたいと思います。

■アルコールチェック義務化の背景について

【1】今回の改正についてのきっかけとなったのは、ご存じのとおり、千葉県八街市で昨年6月にトラックが小学生の列に突っ込み、児童5人が死傷した事故と言われています。大変いたましい事故であり、大きく報道がされました。
さて、この事件について少し復習しますと、加害者となったドライバーは都内の建設現場から大型トラックで千葉県内の会社に帰る途中でした。
事故当日の午後3時前頃、事故現場から約30km手前のパーキングエリアで、事前に購入していた焼酎を飲み、そのまま運転を継続していたところ約30分後に本件事故を起こしました。このとき、ドライバーは現場付近の道路を時速約56キロで走行していましたが、その状況で30分前の飲酒の影響で居眠り運転に陥り、電柱に衝突後下校中であった小学生の列に突っ込み、児童5人を死傷させたものです。公判でドライバーは、業務中に飲酒することが常態化していたと供述しており、また取引先からドライバーに酒臭がするとの苦情が複数回あったことも指摘されています。さる令和4年3月25日に、懲役14年の実刑判決が出て、ドライバー、検察とも控訴せずに確定しました。

【2】さて、この車両は大型トラックではあるものの、いわゆる白ナンバーの車両であったため会社はこのドライバーに対して運転開始前の点呼時にアルコールチェックは行っていませんでした。また、そもそも安全運転管理者も選任されていませんでした。(なお、この点についてはドライバーが所属していた会社の親会社とその会長が略式命令を受けました)
この事故をきっかけに、白ナンバーにおいてもアルコールチェックが必要ではないのかという点が大きく問題視されることとなりました。

たしかに、大型車両である以上、ひとたび事故が起きれば甚大な被害が出る点では緑ナンバーも白ナンバーも変わりがないはずでした。
また、大型車両でなくても程度の差はあれ、一般市民の生命、身体の安全が脅かされることに違いはありません。

そして前述の通り、本件事故は会社が運転前後にアルコールのチェック体制を整備していれば、防ぐことができた可能性のあるものです。そして注意すべきことは、今回の改正前であっても道路交通法施行規則、一定台数の車両を有する者に対して、運転前に点呼により飲酒、過労、病気その他の理由により正常な運転をすることができないおそれの有無を確認することは、もとより義務とされていたことです。(改正前道路交通法施行規則9条の10第5号)

しかし、実際には上記のように白ナンバーの車両では点呼義務を遵守していない会社は多く、さらに安全運転管理者の選任自体をしていない会社も相当数あるという状況でした。このような中で起きた事故であったからこそ、大きな問題提起となり、今回の改正につながったものと考えられます。

次回は、安全運転管理者制度の基礎知識を確認していきます。

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