アルコール検知器義務化延期について/弁護士から見た交通安全

2022年4月1日から道路交通法規則の改正で施行された「白ナンバー事業者のアルコールチェック義務化」について、全5回に渡って現役弁護士が解説してまいります。第5回は、アルコール検知器使用義務化の延期について解説いたします。
※本記事は損保業界の動向・最新データを掲載する新日本保険新聞(損保版)2022年9月20号に掲載されたものの転載です。

ジェネクスト株式会社 取締役CLO
川崎武蔵小杉法律事務所
弁護士 橋本 信行

本年4月にアルコールチェックが義務化され,10月からはアルコール検知器を使用してのチェックも義務化されるとの情報につきまして,本誌でもお伝えし,解説をしてまいりました。
ところが,10月を予定していたアルコール検知器の使用義務が,今般,延期となる見込みであることが分かりました。

さて,ここで少しおさらいしますと,白ナンバーの車両でも,安全運転管理者が運転者に対して酒気帯び等の確認を行うべきことは,もともと道交法及び施行規則において定められておりました。本年,これが厳格な義務となる方向に改正がなされました。
そして,本年10月からは「運転者の酒気帯びの有無の確認を,アルコール検知器を用いて行うこと」「アルコール検知器を常時有効に保持すること」の義務化が予定されておりました。このように4月と10月で施行時期が半年ずれていたのは,事業者がすぐにアルコール検知器を用意するのが困難であるであろうことに配慮したものと考えられます。

ところが,本年7月15日にパブリックコメントに付された内閣府令案では,「最近のアルコール検知器の供給状況等を踏まえ、当分の間、安全運転管理者に対するアルコール検知器の使用義務化に係る規定を適用しないこととすること」と記載されました。
これは,懸念どおり,実際に10月を予定して検知器の義務化を公表してみたところ,アルコール検知器を準備できないと陳情する事業者が多数に上ったのではないかと推測されます。

さて,ここで気になるのが,「当分の間」とはいつまでの猶予なのか,ということかと思います。法令において「当分の間」とは,とくにどのくらいの期間を指すものということ決まりや相場というものがありません。現に,「当分の間」と定められてから,その状況が70年以上続いている法令もあります。

ただし,今回の「当分の間」は,コロナ禍が思いのほか終息せず,半導体不足等が継続しているなどの特殊事情から,アルコール検知器が品薄になっていることを受けてのものと思われます。
もちろん今後コロナ禍がどのように継続あるいは終息していくのか予断を許しませんが,マスクや消毒液のことを思い出して頂ければわかるとおり,検知器も,需要に応じて各メーカーが増産の努力をしているものと思われます。ですから,現在の品薄状況が改善された場合には「当分の間」はすぐにでも終了するものと思われます。政府としても,せっかくアルコール検知器の義務化を制定したのに,経過措置をいつまでも続けていては意味がないからです。

なお,アルコール検知器が全く品薄というわけではなく,実際に,努力すれば検知器の入手ルートはある程度確保できることが分かっています。前回もご紹介しましたが,私はジェネクスト株式会社という事故防止を目的とする企業の法務担当取締役を務めております。同社は,いち早くメーカーにアルコール検知器の増産を求め,数量を確保した上,同社のアルコールチェック代行サービスをご契約頂いた方に検知器を無償提供するというサービスも始めております。

これはあくまで一例ですが,検知器がまったく入手ができない状況ではないことがわかります。義務化の猶予もいつまでのことかが分かりませんし,また,アルコールチェック業務自体が過度な負担となる場合もあるので,そのような観点からもこうした代行サービスもご検討頂くと良いかもしれません。

さて,まとめますと,上記のとおりアルコール検知器の義務化は当面延期となるようですが,安全運転管理を全うするという目的から考えると,やはり皆様にはすぐにでも準備を進めて頂きたいと考えます。
なぜなら,アルコール検知器を使用して酒気帯びの確認をすることが,やはり飲酒運転防止のためにもっとも客観的かつ確実な方法であり,緑ナンバーの車両を保有する会社では全社当然のように行っているものだからです。
よって,法令上の義務にかかわらず,アルコール検知器を早期に導入していくことが必要といえます。義務化が延期されたとはいえ,ひとたび飲酒事故が生じた場合には,会社が負う法的・社会的責任はきわめて重大なものとなることに変わりはありません。

また,安全運転管理においては,個々の事業者様だけではなく,保険会社様あるいは保険代理店様の果たす役割も,非常に大きいものと考えております。リスク管理という観点から,外部から事業者様に助言や働きかけができるのは,保険業界をおいてほかにないからです。
こうした状況下において,保険代理店様におかれましては,今後ますます事業者様との信頼関係を密接なものとして頂き,こうした法改正などの情報,実際の対応方法を適切に事業者にお届け頂き,事業者様の目線でアドバイスを提供して頂くことをお願いしたく存じます。そして,ひいては世の中から交通事故がなくなっていくことを,筆者としては願ってやみません。

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