私は、裁判に提出する証拠資料「交通事故の鑑定書」を作成する交通事故鑑定人です。
毎日のように悲惨な交通事故の場面を目にする交通事故鑑定人の目線から、交通事故の発生原因とは何か、交通事故と交通違反に関係はあるのか、解説します。
目次
1.ハインリッヒの法則
ハインリッヒの法則とは、ヒヤリハット300件に対し、軽微な事故が29件、重大な事故が1件起きるとされるアメリカの損害保険会社に勤務していたハインリッヒ氏によって発見された法則です。
そのうち「ヒヤリハット」とはヒヤリとした、ハッとした瞬間のことです。車を運転している場合は、歩行者や自転車が脇から飛び出してきて急ブレーキを踏んだなど、あと一歩で交通事故になるような場面のことを指します。
2.交通事故の鑑定をしていて思うこと
交通事故の鑑定人の手元に届く映像は交通事故の映像です。交通事故の鑑定では何を鑑定しているのかというと「道路交通法違反の有無」を数値化して鑑定しています。
例えば、法定速度40㎞/hの道路で相手は何キロ超過しているのかなど。そして、事故映像を見ていて思うことは、この道路交通法違反さえなければ事故にはならなかったということ。100件以上の軽微な事故から重大な事故まで事故の瞬間の映像を見ていますが、必ず交通事故の発生には道路交通法違反が隠されています。
交通事故鑑定人の視点でハインリッヒの法則を見ると、「ヒヤリハット」の下層には道路交通法違反があると考えます。
3.「交通違反が減れば交通事故は減る」を裏付けるデータ・研究の紹介
3-1.道路交通法違反検挙率と死亡事故の推移データ
交通事故の発生原因には必ず道路交通法違反が存在していると述べました。私は毎日のように事故映像を見ているのでそのように実感しますが、本当にそうなのでしょうか。
皆さん、疑問に思うはずです。
警察庁のデータの中に「交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取り締まり状況について」各年度でまとめたものがあり、そのうちの道路交通法違反として検挙された数を「交通違反数」として、死亡事故の発生件数と比較してどのような関係があるのか、グラフにまとめました。
参考:警察庁「交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況について(平成27年、28年、29年、30年、令和元年)」】
上記のグラフを見ると、道路交通法違反として検挙された件数は年々減少傾向にあり、検挙された道路交通法違反=交通違反数とすると、交通違反の減少によって死亡事故件数も減少しています。
この結果から、交通違反が減れば、死亡事故の件数も減るということがわかります。
また、死亡事故はハインリッヒの法則で重大な事故に当たります。ピラミッドの頂点の数が減少しているため、その下層にある軽微な事故、ヒヤリハットも減少するはずで交通違反の減少は交通事故全体の減少、ヒヤリハットの減少にもつながると考えられます。
3-2.警察庁『交通事故抑止に資する取締り・速度規制等の在り方に関する懇談会』資料、「交通取締りと交通事故の関係」
内閣府の交通安全白書(平成26年度)内に、警察庁は効果的な取締りの実現、取締りの在り方について検討することを目的として「交通事故抑止に資する取締り・速度規制等の在り方に関する懇談会」を開催したとあります。その懇談会の資料「交通取締りと交通事故の関係」に交通取締りの事故抑止効果について書かれており、取締りを行うと死亡事故、軽傷事故ともに削減されるとしています。
交通取締り件数が一定レベルを超えると交通事故件数が減少する傾向が見られ、一定レベルの交通取締りが交通事故抑止に効果がある一方、その一定レベルには交通情勢などにより地域差があることがわかりました。
例として下図の栃木県、沖縄県、秋田県の交通事故と取締りの関係を見ると、交通事故件数が減少する人口100万人当たりの交通取締り件数に差があります。
秋田県では人口100万人に対して1日100件の取締りを行うと、1日当たりの交通事故件数が95%タイル値で35件以上あった交通事故が10件ほど減少しています。栃木、沖縄においては人口100万人当たりに1日200件の交通取締りを行うと、1日当たりの交通事故件数は減少する傾向にありました。
この結果からは地域差はあっても、交通取締り件数が増加すると交通事故件数が減少することがわかります。
※上記のグラフでは縦軸が1日当たりの交通事故件数、横軸が人口100万人当たりの取締り件数、赤い折れ線グラフが平均事故件数、水色の棒グラフは青い点群の日ごとの人口100万人当たりの取締り件数と交通事故件数の分布の95%タイル値です。95%タイル値とは計測値のバラつきのある分布を小さい順に並び変え、95%に位置する計測値のことで、例えば100個の計測値がある場合、95番目に位置する数値のことです。
4.道路交通法違反を削減「AI-Contact」の紹介
「AI-Contact」は交通事故の発生原因である道路交通法違反を見える化し、企業の交通事故削減に貢献するサービスです。
道路交通法違反を見える化し、従業員の道路交通法違反を削減するための教育の実施が可能で、いつ・どこで・どのような道路交通法違反が発生したのか、道路交通法違反が発生した道路はどんな道路か確認することができます。
「AI-Contact」があれば、取締りを検挙される前に自社で道路交通法違反の発生が認識でき、この違反が減少すれば交通事故の件数も減少していきます。
【クラウド運転管理サービス「AI-Contact」に関する情報はこちら】
5.まとめ
映像内の交通事故の場面には必ず道路交通法違反が存在すること、道路交通法違反が減少すれば死亡事故が減少、交通取締り件数の増加によって交通事故件数が減少することがわかりました。
社用車の交通事故が減らないと悩む安全運転管理者・運行管理者の方は是非、道路交通法違反に注目して教育や指導を行ってみてください。