【後編】白ナンバー事業者必見!「安全運転管理者制度」徹底解説

2022年4月1日から道路交通法規則の改正で施行された「白ナンバー事業者のアルコールチェック義務化」に伴い、注目が高まっている「安全運転管理者業務」について、前編・後編に分けて現役弁護士が解説してまいります。後編では、安全運転管理者業務を怠ることで発生するリスクを解説します。

ジェネクスト株式会社 取締役CLO
川崎武蔵小杉法律事務所
弁護士 橋本 信行

 別稿でも紹介しましたが,今般の道路交通法施行規則の改正の背景となった事案(千葉県八街市で起きた飲酒運転事故)では,運転者が刑事処罰及び行政処分を受けただけでなく,代表者は略式起訴され,会社も多大な損害賠償義務を負いました。

この場合,たしかにアルコールチェックを行っていれば防げた事故である可能性もあります。しかし,アルコールチェックは,交通事故を起こす酒酔いないし酒気帯びという限定的な場面をチェックして防止しているだけにすぎず,これだけでは安全管理の守備範囲が狭すぎるものといえます。
安全運転管理におけるそれ以外の各項目も,怠ることによって交通事故が生じやすくなり,いったん事故が生じれば,多額の被害者賠償をするリスクがあります。また,会社としての社会的信用を失い,業績が悪化することや,倒産リスクが高まるなども考えられます。

もうひとつ,改正前のケースですが,順調に操業していた企業が一回の事故で傾いてしまったケースをご紹介します。
この事故は,平成24年4月,京都・祇園で軽ワゴン車が暴走し19人が死傷したものです。運転していた男性(当時30歳・死亡)の勤務先の呉服販売業者は,ほどなく事業を停止し,京都地裁に破産申立てを行いました。負債総額は約5億7千万円の見込み(当時の報道による)とのことで,事故の影響による来店客数減や受注減で資金繰りが悪化し,事業を続けることは難しいと判断したとのことです。この会社は,昭和62年に創業し,京都府内を中心に,全国の呉服卸業者などに販路を構築し,染呉服などの卸売りのほか,本店で小売りも展開しており,平成14年1月期には約6億8700万円の売上高があったとされています。事故についての管理者責任により,事故の翌年に社長(74歳)が業務上過失致死傷容疑で書類送検されました。不起訴となったものの,業績は低迷し,平成27年1月期の売上高は約2億円まで落ち込んでおり,事業を停止し自己破産申請の準備を始めたものです。

このように,実績のある優良企業であったはずが,一度の事故で凋落してしまったのは大変恐ろしいことです。

今般の改正により安全運転管理者制度が注目されているだけに,その業務に関する不備は今後大きく取り沙汰される可能性があり,多大なレピュテーションリスクをはらんでいると言えます。
また,ひとたび事故を起こすと,損害賠償が仮に保険で賄えたとしても,その後の損害保険料が高額になり,これが会社の収益を圧迫するということも考えられます。
そのほか,上記の事例でも見たように,運転者の刑事罰や行政処分といったリスクもあります。交通事故により会社が負うことになる責任については,別途,拙稿をご覧ください。
さて,こうした処分については,過労運転の場合に,とくに取り締まりが厳しくなっているように感じます。過労運転防止のシステム化も,アルコールチェックと同等以上に喫緊の課題でしょう。
以上から,安全運転管理者に必要とされるこれらすべての業務を正しく行うことは,会社だけでなく,従業員やその家族を守ることにもつながります。

安全運転管理システムの重要性について

前編において,効率のよい安全運転管理に必要なことは,「簡単に」「業務内容を見える化(可視化)」することであると述べました。
安全運転管理者業務というのは,建前だけで守ればいいというものではなく,事故を防ぐために重要なポイントを科学的に網羅しているものであるということの再認識が必要です。
別稿でも記載しましたが,重要なのは,自動車を使用する事業所において,客観的な視点で,業務に従事する運転者が安全に業務を行える状態であるかどうかの判断をするための,第二,第三の目を設けることです。それによって,多発する痛ましい事故を未然に防ぐ防波堤となり,労働環境の見直しや運転者の危機管理意識の向上にも繋がると考えられます。
しかし,そのために多大な労力やコストがかかり,通常の業務が全うできなくなるのでは意味がありませんし,仮に無理をして行っていてもそうした体制は長続きせず,どこかで破綻を来たしてしまいます。

なぜそのようなことが起きるのかは明白です。私は下記の3点が大きな原因であると考えております。
【1】まず,安全運転管理が会社の重要な業務と考えられていないことが挙げられます。また,交通事故による潜在的なリスクの認識が乏しいことも指摘できます。
重視されていない業務に注力することが難しくなってしまうのは当然のことですが,もちろん,それではいけません。このような意識改革は一朝一夕にできるものではありませんが,他方で,安全運転管理業務は待ったなしで行わなければならない業務であり,ここにギャップが生じています。
そこで,自動処理が可能なシステムにまずは日々の処理を委ね,そのうえでじっくりと意識改革,また管理体制の整備を進めるという順序が必要となります。交通事故防止を重視する意識が強くなれば,様々な工夫が出てくると思われ,導入したシステムをさらに活かすことも可能となり,相乗効果が期待できます。
【2】次に,一般に安全運転管理についてのノウハウがないことが挙げられます。これも同様に,いままであまり考えてこなかった内容ですから仕方がない側面もありますが,これからはそれではいけません。ノウハウがなければ,それを持ったシステム提供者に助力を求めることは企業として検討すべき選択肢かと思われます。
【3】また,仮に安全運転管理業務が行われているとしても,それが一部の人的資源に依存していることが挙げられます。すなわち,その人材がいなければ業務遂行が難しく,退職や休職の場合のリスクが大きくなってしまいます。この点,簡単に誰もが利用できるシステムが導入されていれば,安全運転管理業務を一部の人的資源に依存することなく,誰にでもできるワークフローとして確立され,継承されていくことが期待できます。

以上のとおり,安全運転管理システムを導入することで,こうした難点を解決することが可能です。ただし,それは,安全運転管理業務を網羅的にサポートできるシステムであり,かつ,利用しやすいものである必要があります。
前述のとおり,交通事故のリスクはアルコール以外にも存在するのであり,アルコールチェックのみをしていればよいというわけではありません。したがって,アルコールチェックのみのシステムを導入するだけでは十分とは言えないということになります。

最後にもう一点,運転の分析も,安全運転管理者の非常に重要な業務の一つであることを指摘しておきます。
会社に多大な損害を負わせる従業員の交通事故は,実際にはある日突然発生するのではありません。
事故を引き起こした運転手の運行データを分析すると,ほぼ全員が事故を起こす直前に交通違反を複数回引き起こしている傾向にあります。
したがって,日頃の運行業務でドライバーが交通違反をしていないか?しているとしたら,その原因は何か?この2つのポイントを把握することが,安全管理では,大変重要であり,そうすることで,適切な防止策を打てるものといえます。
安全運転管理に,システムを用いることで「簡単に」,「業務内容を見える化(可視化)」することができれば,こうした要素を低コストで簡単に実現でき,会社の収益の改善にも大きく貢献することが期待できます。

 

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