今話題の白ナンバーアルコールチェック義務化について弁護士が徹底解説!

今般、道路交通法施行規則が改正され、本年4月1日から施行されます。
この結果,いままでは貨物自動車運送事業輸送安全規則や旅客自動車運送事業輸送安全規則等でいわゆる緑ナンバーについてのみ点呼義務として課されていた、アルコールチェックの義務・記録の保存義務が、白ナンバーの車両を一定の台数運行させる事業者にも課されることとなりました。
ただし、実際の運用については依然として不明点が多いところです。
そこで、弊社取締役であり川崎武蔵小杉法律事務所代表弁護士でもある橋本が、皆様から寄せられた疑問点について回答させていただきます。

ジェネクスト株式会社取締役CLO
川崎武蔵小杉法律事務所代表弁護士

 橋本 信行

※なお、本稿はあくまでも執筆時(令和4年2月)時点における情報をもとにした私見となります。今後の運用により回答内容は変更となる場合がありますので、ご了承ください。また、回答内容について個別の事案への適用の責任は負いかねますので、具体的事案についてのご質問は、監督官庁や弁護士等の専門家にお問合せのうえでご判断ください。

1.今回寄せられたよくある質問

この原稿の作成にあたりまして、皆様からいろいろと実務的なご質問を頂いております。
・時間外でも安全運転管理者は対応する必要があるのですか?
・どうしても点呼が完了しない限り運転出発できないのでしょうか?
・安全運転管理者が点呼で問題を感じたときに出発させてしまうとどうなりますか?
・安全運転管理者が不在、また副安全管理者も不在時の確認はどうすればよいのでしょうか?
・安全運転管理者に選任できるのは従業員のみですか?あるいは、業務委託契約者も選任できるのでしょうか?
・通勤のみに利用されているマイカーを管理する場合も、安全運転管理者の選任は必要ですか?
また、マイカーを業務に利用している場合はどうなるのですか?
・例えば、確認業務も行ない記録も残したが、アルコール検知器の不具合等で酒気帯びを見逃し、最悪事故を起こした場合、責任の所在はどうなるのでしょうか?会社の管理責任が問われるのでしょうか?
・令和4年4月からは,原則、安全運転管理者による対面目視での顔色チェック等が必要ということですが、点呼記録とともに「顔写真」撮影の上保存し、安全運転管理者がチェックする形で代用はできないのでしょうか?

いずれも、実際の業務の中で当然のように出てくる疑問であり、とても切実でリアルな内容という印象を受けました。

2.基本的な考え方

さて、基本的な考えとしては、単に業務上の都合のみを理由として容易に例外を認めることは、非常に危険なことだということです。一般的に、制度の変わり目では、監督官庁としては多少の懈怠はやむをえないと考えるお目こぼしの側面もありうるものの、反面では制度を周知徹底させるために、いきおい・見せしめ的な指導・摘発をすることも考えられるためです。
そこで、文言上の明確な例外のない部分は、運用の相場観が定まるまでの様子見の段階では多少困難でも全く履行しないというわけにはいかないでしょう。
他方、法令は明らかに無理なことを強いるものではありません。現に、本来厳格な緑ナンバーの車両の点呼においてさえも、いくつかの例外措置は認められています。
そこで、例えば緑ナンバーにおいてさえ例外措置が許されている内容については、白ナンバーでも特段の事情のない限り、同様の状況では同様の例外が認められるというふうに、一応考えてよいでしょう。
それでは、このような考え方のもと、以下でそれぞれのご質問を検討していきます。

ケース1.時間外でも安全運転管理者は対応する必要があるのですか?

はい、方法の問題はありますが、対応自体はする必要があると思われます。
また、いまのところ機械等により完全に自動化することは許されず、対人的な対応は原則となるでしょう。よって、大変だとは思いますが、そのような時間外業務が発生する場合には対応する当番を決めておく必要があります。
もとより、勤務時間外のプライベートな運転については、特段の事情がなければ安全運転管理者が責任を負うということはありませんが、単にその事業者の営業時間外に発車するというのみの理由で、アルコールチェックの対応が必要なくなるということはないものと考えます。
しかし、早朝深夜においても営業所を開けてアルコールチェックを行わなければならないとするのは合理的ではありません。この場合、オンラインや電話での対応は可能で、必ずしも営業所で行わなければならないわけではないと解されます。
緑ナンバーでもいわゆるGマークの取得により遠隔で点呼できる要件が定められています。白ナンバーの車両ではそもそもこれにあたるものがありませんので、基本的には遠隔での実施が可能と考える余地があります。さらに、日をまたぐ業務では、緑ナンバーでも許されているので、白ナンバーの場合も同様に許されると考えます。なお、このような遠隔による点呼を実施する場合、電話よりも情報量が多いテレビ電話の使用がより望ましいところです。
ただ、実際問題として、たとえば従業員が帰宅後に、業務上の必要が生じて車両を深夜に発進させるといった場合、仮に電話やオンラインであったとしても、会社側で毎回把握してから発車させるような体制をとることはかなり困難であると思われ、このあたりがどのように緩和されるのかは、今後の運用を待ちたいところです。

ケース2.どうしても点呼が完了しない限り運転出発できないのでしょうか?

はい、点呼が完了していないと評価される状況なのであれば、やはり出発することができないと思われます。
よほどの緊急避難的な(その違反により守ろうとする利益が違反により害される利益を大幅に上回るような)状況では、例外が考えられますが、人命がかかっているような場合を除いて、容易に認められるものではありません。例外はないと考えたほうが良いと考えます。
仮に見切りで発車してしまった場合でも、点呼を実施しなかったことは1年間記録が保管されるわけですから、監査により発覚する場合もありうるところです。また、監査でなくても、内部告発などで発覚するケースも想定されます。実施していないのに実施したように記録することはもちろん論外です。現状では安全運転管理者の選任を取り消される行政処分がありうる以外には、直接的な罰則こそないものの、このような違反が発見された場合には事業者の社会的信用が大きく損なわれ、また、以後、監督官庁からの目も厳しくなることは確実と思われます。

ケース3.安全運転管理者が点呼で問題を感じたときに出発させてしまうとどうなりますか?

その場合、安全運転管理者は、道交法施行規則に対する違反となります。
当然ながら、点呼はただ実施すればいいのではなく、チェックの結果異常があった場合には、その従業員に運転をさせない義務も含まれます。事故が生じなかったとしても、安全管理者は、道交法施行規則に対する違反となります。
さらに、その結果として事故が生じた場合、民事上の責任として、事業者が民法715条における使用者責任を負うことには疑いの余地がありません。もとより、従業員が業務上生じた事故において事業者が責任を負うことを回避すること自体が難しいのですが、まして点呼で問題があったことを認識したうえで運転させていたのであれば、事業者側に免責の余地はほとんどないと思われます。
また、安全運転管理者が問題を感じていたにもかかわらず運転させたことが原因で人を負傷や死亡させた場合には、運転者だけでなく事業者(代表者)や安全運転管理者が、人身傷害に対する刑事上の責任を負うこととなる可能性があります。
さて、それでは、従業員がその場では運転しないことを了解したのに、じつは無断で運転していたという場合はどうでしょうか。このときは、事業者側の責任はたしかに相当軽減されるでしょう。ただ、やはり実際の状況について事業者が何も把握していなかったとなった場合、総合的に見てアルコールチェックの義務の懈怠の責任を問われる可能性は、なお考えられるところです。
そこで、運転を禁じた従業員が勝手に車両を運転していないか、いわゆるテレマティクス(車両の運行状況を会社が把握するシステム)の利用等により、リスクマネジメントを図ることも検討すべきでしょう。さらに、違反行為であることを徹底して教育することや、就業規則に記載しておくことなどもリスク管理としては重要となります。

ケース4.安全運転管理者が不在、また副安全管理者も不在時の確認はどうすればよいのでしょうか?

それらの者の代わりに確認業務ができる体制を整えていただく必要があります。
法令上の建前としては、原則として安全運転管理者が不在であることは想定されていないと思われますが、たしかに実際には一時的な不在はありうるところです。この場合についての明文の規定はないので、ここでも緑ナンバーにおけるルールをヒントに検討を加えますと、下記のとおりとなります。
まず、緑ナンバーの車両では運行管理者資格のある者を運行管理者として選任することが義務づけられていますが、実際の業務は一定程度その補助者(基礎講習を修了した者)に業務を行わせることができます。すると、白ナンバーの場合においても、安全運転管理者以外の者にアルコールチェックの業務を行わせることは禁止されないものと解されます。ただし、責任は安全運転管理者に帰属します。
ただ、普段、通常業務しか行っていない従業員にこうした安全管理業務を突然行わせることは困難であり、不備を生じるもととなると思われますので、社内全体でマニュアル化し共有しておくことが重要となってくるでしょう。

ケース5.安全運転管理者に選任できるのは従業員のみですか?あるいは、業務委託契約者も選任できるのでしょうか?

従業員のみならず業務委託契約者も選任できると解されます。
前問に似たご質問ですが、道路交通法は安全運転管理者の選任を義務づけるのみであり、同施行規則はその欠格事由を定めていますが、そこには、雇用される者でないことは挙げられておりません。
ここでもまた緑ナンバーの場合を参考にしますと、これも意外かもしれませんが、運転者と異なり運行管理者については、従業員(定期雇用される者)でなくてはならないという規定はありません。
以上の根拠により、白ナンバーにおける安全運転管理者についても、業務委託契約者を選任できるものと考えます。

ケース6.通勤のみに利用されているマイカーを管理する場合も、安全運転管理者の選任は必要ですか?また、マイカーを業務に利用している場合はどうなるのですか?

通勤のみに使用しているマイカーについては本件規制の対象外となります。他方、マイカーであっても業務上で利用しているのであれば、本件規制は適用されます。よって、その場合は運行する車両が規定台数を超えれば安全運転管理者の選任が必要です。
名義に関係なく、業務に使用するのであれば、事業者によるアルコールチェック等の確認の必要性の趣旨は、事業者の所有車両と同様に妥当するためです。
なお、この点は、「業務に使用せず、個人が所有・管理しており通勤のみに使用している自動車であれば、台数の算定に含みません。 ただし、業務に使用する場合は、自動車の名義に関係なく、台数の算定に 含める必要があります。」と山形県庁HPのQ&Aには明記がありました。上記の趣旨によるものと思われます。

ケース7.例えば、確認業務も行ない記録も残したが、アルコール検知器の不具合等で酒気帯びを見逃し、最悪事故を起こした場合、責任の所在はどうなるのでしょうか?会社の管理責任が問われるのでしょうか?

会社の管理責任が問われる可能性は高く、結果として道交法違反に問われる可能性もあるものと思われます。
酒気帯びの見逃しの原因がアルコール検知器の不具合であった場合でも、会社はアルコール検知器を適正な状態に保守する義務も負っていると考えられることから、そのことも含めて会社には責任があり、管理責任を果たしたと評価されることは困難と思われます。なお、緑ナンバーの車両の場合、当然ですが、アルコールチェック検知器の保守の義務が法令上明記されています。
しいていえば、アルコール検知器の管理を専門の業者にアウトソーシングしていたような場合には、一定程度責任の軽減の余地があるかもしれません。アウトソーシングが難しくても、定期的な検査などを社内でマニュアル化することで対応したいところです。
また、前述のとおり、事故を起こした場合の責任として、民法715条の使用者責任の成立については、使用者側にとってきわめて厳しい扱いがなされています。よって、上記のような事情にかかわらず、事故を起こしたという場合に被害者との関係で民事上の賠償責任を免れることはそもそも難しいといえるでしょう。このため、事故のリスクに対しては、必ず任意保険等で対応しておく必要があります。

ケース8.令和4年4月からは原則、安全運転管理者による対面目視での顔色チェック等が必要ですが、点呼記録と共に「顔写真」撮影の上保存し、安全運転管理者がチェックする形で代用はできないのでしょうか?

代用はできないと考えます。
ほとんどの従業員が直行直帰、かつ運転時間もバラバラなため、対面や電話・WEBでの確認が運用上厳しいケースがあると聞き及んでおります。そのような場合、時間のずれによる安全運転管理者の業務負担を軽減するため、撮影された写真を一挙に確認したい、ということは理解できます。
これも運用上のご質問であり、なかなか難しいところですが、緑ナンバーでこのような方法を取った場合には、違反となることはほぼ確実と思われます。やはり「対面目視」と「顔写真」では大きな差があります。かつて筆者は、研鑽のため運輸・旅客とも運行管理者基礎講習に参加し、運行管理者試験に合格していますが、その過程において受けた指導は下記のようなものです。まず、点呼自体を非常に重視していたこと、そして、点呼においては、リアルタイムな会話等により、総合的に雰囲気を感じ取って行うことが重要ということを繰り返し指摘されました。
たしかに、遠隔地ではやむなく画像送信となりますので、その送信される画像を録画した「動画」でも,運転者がしゃべっているわけだからよいではないかという話が次に出てきそうなところではあります。しかし、おそらくそうではなく、会話による相手のリアルな反応を見ることがやはり重要と考えられているわけです。このため、画像送信の場合でも、必ずリアルタイムで会話を伴う方法が採用されています。
そして、会話による確認に重点を置く考え方は、貨物・旅客事業における運行管理者による点呼だけでなく、道路交通法上の安全運転管理者による点呼においても通底するものがあると思われます。
以上から、動画の送信では違反となる可能性があるのではないかと少なくとも私は考えます。
なお、これと異なり、チェック時の画像を撮影し、それを確認を行った1年間保存のための記録とすることは、記録の方法として許されるものと考えます。

ところで、余談ですが、遠隔地における点呼では、かつて、画面外で他の者がアルコール検知器に息を吹き込むという違反が横行したことがありました。運転者がそのバイパスのための管まで自作していたのは有名な話です。このような、まさかと思うような違反が行われることが実際にあります。

3.最後に

いかがでしたでしょうか。
事業者や安全運転管理者は、このような違反が起こらないような何らかの確認手段を考えておくことが必要であり、従業員には、重大な禁止行為の例として就業規則等も含めて明確に通告しておく必要があります。

以上、手探りにはなりましたが、私なりの考察を述べさせて頂きました。少しでも、皆様の参考になりましたら幸いです。

筆者:橋本信行(ジェネクスト株式会社取締役CLO,川崎武蔵小杉法律事務所代表弁護士)

4.参考資料

警察庁HP「安全運転管理者の業務の拡充」
道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令等の施行に伴う安全運転管理者の業務の拡充について【通達】
警視庁HP「安全運転管理者等に関するよくある質問」
山形県庁HP「安全運転管理者等に関するよくある質問」
・18訂版 執務資料 道路交通法解説/東京法令出版
・運行管理者実務必携/輸送文研社

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